ねもと整体&ストレッチスタジオ根本院長。
整体技術と運動指導の両面からサポート!
最終更新日 2026年7月28日
小学生や中学生で肘や肩の痛みを訴えて来院される方の多くに共通しているのが、同じ動作の繰り返しによる「オーバーユース症候群」です。特定のスポーツ動作を繰り返すことで、まだ発達段階にある骨や筋肉、腱に少しずつ負担が蓄積し、やがて痛みとして表面化します。本人は「頑張っているだけ」のつもりでも、体の中では見えないダメージが静かに進行していることが少なくありません。
特に野球のように同じ腕の動きを何百回、何千回と繰り返す競技では、この使いすぎの積み重ねが深刻な故障につながるケースが多く見られます。海外のスポーツ医学の研究でも、痛みを感じたことのある少年野球選手の多くに、すでに肩の損傷が見つかっているという報告があります。
この記事では、代表的な野球肩・野球肘のケースを中心に、投球数の目安や下半身強化の考え方、そして当院での実際の指導例を交えながら、使いすぎによる痛みとの向き合い方をお伝えしていきます。
痛いところだけではない。
子供に多い使いすぎのスポーツ障害と防ぎ方
20年の臨床経験と海外のスポーツ医学データから見る、投球障害を防ぐための正しい知識
目次
肩が痛いと訴える野球少年の半数以上に、すでに損傷が見られる現実
小学生の野球選手を対象にした海外の研究では、肩に痛みを感じたことがある選手のうち半数以上が、実は肩の筋肉や腱にすでに損傷を抱えていることが分かっています。完全に筋肉が断裂しているわけではなく、多くは腱や筋肉の一部にわずかな穴が空いたような状態で、MRI画像で見るとまるで雑巾に穴が空いたように見えると表現されることもあります。
そこまで至らなくても、腱板と呼ばれる肩のインナーマッスル部分に炎症や小さな損傷が見つかるケースは少なくありません。痛みを我慢しながらプレーを続けている子供の体の中では、こうした変化が静かに進行している可能性があるということです。
「大人でも1日100球」なら、子供はその半分が目安
野球の投球については、大人でも全力で1日に投げてよい球数の目安は100球程度とされています。ということは、体の発達が未熟な小学生であれば、その半分程度が適切な範囲だと考えられます。しかし、恵まれた環境ばかりではなく、チームの事情で無理をさせてしまう場面もあるのが実情です。
肩の損傷は、肘に比べて「元に戻りにくい」
特に肩の損傷は、肘の損傷と比べて完全復帰が難しいことが分かっています。肘の場合は、大谷翔平選手やダルビッシュ有選手のように、トミー・ジョン手術という優れた術式によって完全復帰を果たす例が増えていますが、肩に関してはそうしたケースが非常に少なく、現状ではオーバーユースそのものを予防するしかないというのが実情です。
海外の青少年野球を対象にした調査では、推奨されている投球制限のガイドラインが、大会やトーナメントの現場では十分に守られていない実態も報告されています。数字だけのルールにせず、日々の疲労のサインを見逃さないことが何より大切です。
野球以外にも共通する、子供のオーバーユース症候群
オーバーユースによる痛みは、野球だけの問題ではありません。テニスやバドミントンでは肘の内側や外側に負担が蓄積する「テニス肘」、バスケットボールやバレーボールのようにジャンプを繰り返す競技では膝のお皿の下が痛む「ジャンパー膝」、サッカーや陸上競技では、すねの骨に沿って痛みが出る「シンスプリント」が代表的です。水泳では、クロールやバタフライで肩を繰り返し回すことによる「水泳肩」も同じ仕組みで起こります。
共通しているのは、どの競技も特定の関節や筋肉、腱に同じ方向の負荷を繰り返しかけているという点です。競技が違っても、体の使い方の癖や、練習量に対して回復が追いついていない状態が続くと、同じようにオーバーユースのリスクが高まります。お子様のスポーツが野球でなくても、この記事でお伝えする考え方は十分に当てはまります。
大谷翔平選手に見る、下半身強化という発想
以前、大谷選手が日本の球団に在籍していた頃にトレーナーとして活動されていた方の講演を聞く機会がありました。その中で印象的だったのは、投球数をしっかり制限しながら、中長期的な視点でトレーニングを行っていたということです。特に下半身のトレーニングを丁寧に行うことで、上半身への負担を減らしているという話が、実際の映像を交えて紹介されていました。
投球という動作は、下半身で生み出したパワーを最終的に腕でリリースする運動です。だからこそ、下半身の強さや使い方を磨くことで、投球という動作そのものを無理に繰り返さなくても、投球スキルを底上げできるという考え方につながります。
「練習」と「トレーニング」は別物である
私が体育大学で学んだことの一つに、練習とトレーニングは違うという考え方があります。入学してすぐにこのことを教わり、当時はとても驚いた記憶があります。一般的には、競技の練習をたくさん行うことが競技力向上の一番の近道だと考えられがちです。
しかし、トレーニング学の視点で野球の競技力向上を考えると、投球動作だけをいくら繰り返しても、筋力そのものや下半身から生まれるパワーの向上には限界があります。走り込みも同様で、同じスピードで繰り返し走り続けると、足の筋力はある程度発達しますが、その一方で足首や膝を痛める選手が増えていく傾向があります。
逆に、練習量を少し抑えてトレーニングの比重を増やすことで、筋の質そのものが向上し、結果としてゆっくりとした動作の中でも筋肉の働きが高まり、それが投球のパワーにつながっていくこともあります。
直線的な筋力と投球動作をつなぐ「機能的な連動性」
もう一つ大切なのが、体の連動性を高めるという視点です。腕立て伏せやベンチプレスのような種目は、基本的に直線的な動作です。一方で投球動作は、下半身から体幹、そして上肢へと、螺旋を描くように力を伝えていく複雑な運動様式です。
そのため、直線的な筋力トレーニングと投球という複雑な動作をつなぐためには、その中間に位置する「ファンクショナルトレーニング」と呼ばれるアプローチが有効になります。実際に、下半身や体幹の機能性を高めることが、投球時の肩や肘への負担を減らすうえで重要だとする報告もあります。
保護者が見逃さないでほしい、痛みのサイン
子供は痛みがあっても、練習を休みたくない一心で「大丈夫」と言ってしまうことが少なくありません。だからこそ、保護者の方が日々の様子から変化に気づいてあげることが大切です。投球フォームが崩れてきた、利き腕でない側をかばうような動きが増えた、練習後に決まって同じ場所を触っている、以前より球速や動きに勢いがなくなったといった変化は、体からの小さなサインであることが多いです。
夜間に痛みで目が覚める、朝起きた時に関節がこわばっている、といった訴えがある場合は、単なる筋肉疲労ではなく、組織の炎症や損傷が進んでいる可能性も考えられます。痛みを「気合が足りない」の一言で片付けず、変化のサインとして受け止める姿勢が、大きな怪我を防ぐ第一歩になります。
「休むこと」もトレーニングの一部という考え方
オーバーユースの予防というと、フォームや筋力トレーニングの話に目が向きがちですが、実は「休むこと」そのものが非常に重要なトレーニングの一部です。海外のスポーツ医学の現場では、年間を通して同じ競技だけを行うのではなく、数ヶ月単位でしっかりと休養期間を設けることが、慢性的な故障を防ぐうえで欠かせないと考えられています。
休養というと後ろ向きに感じるかもしれませんが、体は休んでいる間に組織を修復し、トレーニングの効果を定着させています。練習を詰め込むほど強くなるという考え方から一歩離れて、オフシーズンや積極的な休養日を計画的に組み込むことも、長期的に見れば競技力の向上につながる大切な戦略です。
指導者・保護者との連携が子供を守る
オーバーユースの予防は、選手本人の頑張りだけで成り立つものではありません。指導者が投球数や練習量を適切に管理すること、保護者が体の変化に気づいて声をかけること、そして必要に応じて専門家に相談すること、この三者の連携があって初めて、子供の体をしっかり守ることができます。
特に、複数のチームやスクールを掛け持ちしている場合、それぞれの指導者が把握している練習量にズレが生じ、結果として体への負担が積み重なってしまうことがあります。保護者が全体の練習量を把握し、必要であれば指導者間で情報を共有する橋渡し役になることも、お子様の怪我を防ぐうえで大きな意味を持ちます。
実際の指導例:肩の痛みで見学が続いていた中学生野球選手
下半身強化から始めた、肩の痛み改善プログラム
当院に来られた中学生の野球選手は、肩の痛みで投球動作ができず、見学が続くことで競技パフォーマンスが落ちてしまうのではないかと心配されてご来院されました。そこでまず取り入れたのが、下半身の出力を高める自重スクワットです。
最初は自重だけでも十分な効果があり、慣れてきた段階で片足で行うブルガリアンスクワットへと移行しました。さらに、投球という動作は横方向への体重移動を伴うため、サイドランジも取り入れ、筋力トレーニングとファンクショナルトレーニングを組み合わせながら指導を行いました。その結果、強かった肩の痛みが和らぎ、投球パワーの向上も同時に実感していただくことができました。
まとめ
子供のスポーツにおける「使いすぎ」の問題は、痛みが出てから気づくのではなく、痛みが出る前の段階で対策を講じることが何より大切です。野球であれば投球数の目安を守ること、そして投球動作そのものを繰り返す量を無理に増やすのではなく、下半身や体幹の機能を高めるトレーニングを段階的に取り入れていくことが、怪我のリスクを抑えながら競技力を伸ばす近道になります。
特に体の土台がまだできあがっていない小中学生の時期に、速い動きばかりを繰り返してしまうと、スポーツ障害につながりやすくなります。だからこそ、ゆっくりとした動作を丁寧に行うトレーニングを取り入れながら、足から体幹、そして上肢へとパワーを伝える運動連鎖を高めていくことが重要です。
これは野球に限った話ではなく、テニスやバレーボール、水泳など、同じ動作を繰り返すあらゆる競技に共通する考え方でもあります。大切なのは、痛みを「頑張っている証拠」と捉えず、体からの重要なサインとして受け止めることです。もしお子様が肘や肩の痛みを訴えていたり、練習量に見合わない疲労感や違和感を口にしていたりする場合は、その背景にオーバーユースが隠れていないか、一度立ち止まって見直してみてください。
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